第43話「本を読んで強くなろう!」の巻
薫ちゃん「えへへ、先生、これ見てください。」
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石野先生「おっ、『月刊碁ワールド』じゃない。薫ちゃん、買ったんだ。」
薫ちゃん「はい、もう囲碁のルールは自信がついたので、これからは本を読んで勉強しようと思って。」
石野先生「う〜ん、素晴らしい心がけだよ。囲碁の勉強方法は、主に『1.解説書を読む。』『2.プロの碁を並べる。』『3.詰碁を解く。』の3つと言われていてね。そのすべてを実践できる『碁ワールド』は、ぜひ毎月読んでほしいところだ。」
薫ちゃん「はい、これから頑張ります。」
石野先生「昔はもっと色々な囲碁雑誌があったんだけどね、どんどん廃刊になって、今は『碁ワールド』だけになっちゃったんだよ。」
薫ちゃん「そうなんだ・・・残念ですね。」
石野先生「まあ、その分『碁ワールド』の内容が濃くなっているはずだから、しっかり勉強してよ。」
薫ちゃん「はいっ!ところで先生、雑誌以外にも、本を読んで勉強したいんですけど、おすすめの本はありませんか?」
石野先生「そうだね、薫ちゃんくらいの初心者・初級者の頃には、石倉昇(いしくらのぼる)先生の本がおすすめかな。」
薫ちゃん「私、AIのこととか勉強したいんですけど・・・」
石野先生「AIねぇ、止めはしないんだけど・・・囲碁って、数学と似ているところがあってね。」
薫ちゃん「数学・・・嫌な響きですね(笑)」
石野先生「今の薫ちゃんの実力は、数学の世界でいえば、足し算・引き算・掛け算・割り算の四則計算ができるようになった小学生のようなものなんだ。」
薫ちゃん「小学生ですか、ずいぶん若返っちゃった。」
石野先生「今の状態でAIの勉強をしようとするのは、小学生が相対性理論に挑戦するようなものかな。」
薫ちゃん「相対性理論!私かなり、無謀な挑戦をしようとしてたんですね。」
石野先生「もちろん、難しい本を読むことも無駄にはならないだろうけれど、上達という意味では実力にあったものを選ばないとね。」
薫ちゃん「じゃあ、石倉先生のおすすめの本はありますか?」
石野先生「この本なんてどうだろう。」
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薫ちゃん「『入門その後の・・・』なんて、今の私にぴったりですね。」
石野先生「石倉先生は、アマチュアからプロ試験に挑戦した異色の経歴の持ち主でね。だから、アマチュアの指導には定評があるよ。」
薫ちゃん「そうなんですね。」
石野先生「東京大学を卒業して大手銀行に勤めていたんだけれど、プロ棋士になる夢を諦めきれずに、銀行を辞めてプロ試験を受験したんだって。」
薫ちゃん「えっ、東大ですか!?しかも、銀行辞めてからプロ試験を受験するなんて、そこでプロになれなかったらどうするつもりだったんでしょう?」
石野先生「どうなんだろうね(笑)まあ、それだけ囲碁への情熱があったってことだよ。だからこそ、普及にも力を入れているんじゃないかな。」
薫ちゃん「分かりました。私、早速この本読んでみます。」
石野先生「うん、読み終わったら教えてよ。他にも、おすすめの本がたくさんあるから。」
薫ちゃん「は〜い。」
第42話「OGSで対局してみよう!」の巻
薫ちゃん「先生、私もようやくネット碁を始めてみたんですけど・・・」
石野先生「おっ、薫ちゃんの囲碁熱も盛り上がってきたね。」
薫ちゃん「そうなんですけど、相手の方がいると思うと緊張する上に、終盤でゴチャゴチャしてくると考える時間がなくなっちゃって、ほとんど中押負けか時間切れ負けなんです(泣)」
石野先生「う〜ん、初心者の頃は、終局が分からなくてバタバタしてしまうからね。『終わりが分かれば碁は初段』という格言もあるくらいで、今のうち終局直前でバタバタしてしまうのは決して恥ずかしいことではないよ。」
薫ちゃん「そうかもしれませんけど、このままじゃ囲碁に挫折してしまいそうです。何かいい方法はありませんか?」
石野先生「そうだね、じゃあ『OGS』で対局してみるのはどうかな。」
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薫ちゃん「『OGS』ですか?何だか英語がいっぱい並んでますけど・・・」
石野先生「ははは、ちゃんと日本語に対応しているから大丈夫だよ。もちろん、無料でほぼすべての機能を利用することができる。」
薫ちゃん「このOGSって、他のネット対局と何が違うんですか?」
石野先生「OGSはね、『通信対局』と呼ばれる非リアルタイムの対局が盛んなんだ。」
薫ちゃん「非リアルタイムって、どういうことでしょう。」
石野先生「よくあるネット対局は、お互いが同時にパソコンの前に座って、リアルに盤をはさんで対局するように、着手していくよね。」
薫ちゃん「はい、時間制限もあって、それで焦っちゃうんです。」
石野先生「通信対局というのはね、OGSに用意された碁盤形式の掲示板のようなところに、お互いが1手ずつ投稿していきながら対局する形式なんだ。」
薫ちゃん「えっ、じゃあお互いがたまに掲示板をチェックして、相手が打っていたらこちらも打つって感じなんですか。」
石野先生「そうそう、だから1日1手しか進まないこともあるし、19路盤だったりすると、対局が終わるまでに何カ月もかかったりするんだよ。」
薫ちゃん「でも、その分、落ち着いてゆっくり考えられるわけですね。」
石野先生「そこが、薫ちゃんにおすすめの理由なんだ。」
薫ちゃん「よ〜し、私、早速チャレンジしてみます!」
石野先生「頑張って!ちなみにOGSは、専用のソフトなんかは要らなくて、ブラウザさえ動けば利用できるから、パソコン・Android・iPhoneのどれでも遊ぶことができるからね。」
薫ちゃん「家でも外でも、どこでも遊べますね。」
石野先生「一般的なネット碁のようなリアルタイムの対局の機能もちゃんとあるし、検討機能も充実している、ある意味すべての機能を備えたネット対局場なんだ。もっと利用者が増えてもいいと思うんだけどなぁ。」
薫ちゃん「今アクセスしてみましたけど、ちょっと画面がとっつきにくいですね。」
石野先生「ボランティアの人たちで運営しているから、商売っ気が薄いのがネックなのかもね。」
薫ちゃん「でも、対局を始めるのは簡単ですね。早速9路盤の通信対局を始めてみました。」
石野先生「そうそう、9路盤の対局も結構盛んだから、初心者には嬉しいよね。」
薫ちゃん「じゃあ、しばらくOGSで対局してみます。」
石野先生「よしっ、頑張れ!」
第41話「囲碁vs将棋 仁義なき戦い」の巻
薫ちゃん「先生、YouTubeで面白い動画見つけたんですよ。これなんですけど、ちょっと見てみてください。」
石野先生「おっとぉ、何だこれ(笑)メチャクチャ面白いじゃない。え~と、なになに・・・すごい、この動画PowerPointで作っているんだね。パワポにこんな使い方があったなんて、知らなかったよ。」
薫ちゃん「最後はちゃんと、囲碁のほうが勝ってくれましたね。将棋ファンの人たちからすれば、不満かもしれませんけど(笑)」
石野先生「囲碁と将棋の対決といえば、薫ちゃん、この2つのゲームはどちらが格上か知ってるかい?」
薫ちゃん「えっ、囲碁と将棋の間に、格上と格下とかあるんですか?」
石野先生「もちろん、現代ではそれぞれの優劣なんて存在しないし、議論する必要もないんだけれど、江戸時代には明確な格付けがあったんだよ。でね、その格付けの話になると、またまた本因坊算砂(ほんいんぼうさんさ)が登場するんだ。」
薫ちゃん「算砂さん、露出多すぎ!どんだけ、囲碁界に足跡残してるんですか。」
石野先生「算砂はね、当時としてはとんでもなく囲碁が強かったんだけれど、実は同じくらい将棋も強かった。」
薫ちゃん「そうだったんですか、本当に多才な方だったんですね。」
石野先生「だからね、碁所(ごどころ)という囲碁界のトップの役職に就くと同時に、将棋所(しょうぎどころ)も兼務していたんだ。」
薫ちゃん「2つの役職を同時にこなすなんて、大変だったでしょうね。」
石野先生「そう、大変だったんだ。あまりに大変だったから、算砂は途中で将棋所の地位を、ライバルだった大橋宗桂(おおはしそうけい)に譲ってしまうんだよ。」
薫ちゃん「え~、もったいないですね。」
石野先生「きっと、碁所に専念したかったんだろうね。もしくは、宗桂という最強のライバルがいたから、将棋所は自分じゃなくても大丈夫と思ったのかもしれない。」
薫ちゃん「じゃあ、その出来事がきっかけで・・・」
石野先生「そう、算砂が碁所を選んだことから、囲碁のほうが将棋よりも格上ってことになっちゃったんだ。」
薫ちゃん「その時、算砂さんが将棋所を選んでいたら・・・」
石野先生「うん、格付けは逆になっていただろうね。」
薫ちゃん「でも、格付けなんて、それほど意味のあるものじゃなかったのでは?お互いが、直接対局するわけじゃないんだし。」
石野先生「確かに、どれほどの意味があったのかはわからないけれど、将棋指しの人たちからすれば耐え難いものだったのかもしれないよ。江戸時代には、将棋指しの人たちから『将棋が囲碁よりも格下なのはおかしいから、同格にしてほしい』っていう訴えがあったくらいだからね。」
薫ちゃん「そんなことがあったんですか。で、結果はどうなったんですか?」
石野先生「奉行所から、『つべこべ言わずに、修行しろ!』って怒られて終わったみたいだよ。江戸時代に、こういった制度を覆すのは大変だったんだろうからね。」
薫ちゃん「今では、囲碁のほうが格上なんて思っている人はいませんし、そもそもそんなことを考える人もいませんよね。」
石野先生「確かにそうだね。そうなんだけど、実はタイトルの賞金を見てみると、囲碁のほうが将棋よりもちょっとだけ高かったりするんだ。もしかしたら、江戸時代から続く格付けが、こんなところまで尾を引いているのかもしれないね。」
薫ちゃん「え~、なんだか差別みたいで、嫌だなぁ。」
石野先生「ははは、冗談冗談。多分、プロ棋士の人数が囲碁のほうがずっと多いから、それで賞金も高くなっているんだと思うよ。」
薫ちゃん「だったらいいんですけど・・・」
石野先生「そうだ、最後に算砂の辞世の句を紹介しよう。」
薫ちゃん「辞世の句が残っているんですか?」
石野先生「算砂の辞世の句はね、『碁なりせば 劫(コウ)など打ちて生くべきに 死ぬるばかりは手もなかりけり』という句なんだ。現代語にすれば、『碁だったらコウでも打って生きるのに 寿命で死ぬのは打つ手がないね』ってところかな。」
薫ちゃん「先生・・・すごいですね、ちゃんと三十一文字で現代語に訳してる。」
石野先生「ははは、褒めてくれてありがとう。僕が知る限り辞世の句が残っている碁打ちは算砂だけだから、やっぱり囲碁界だけでなく日本の歴史に名を残した人だったんだろうね。」
薫ちゃん「そのおかげで、私たちも今こうして碁が打てるのかもしれませんね。」
石野先生「かもしれないね。算砂先生に感謝!」
薫ちゃん「はい、感謝!」
第40話「本能寺の変と囲碁との意外な関係」の巻
石野先生「今日は、本因坊算砂(ほんいんぼうさんさ)にまつわるエピソードを紹介しようか。」
薫ちゃん「算砂さんって、確か本因坊家を興した人ですよね。信長、秀吉、家康に仕えてたって。」
石野先生「その算砂だけれど、実は本能寺の変とつながりがあるって知ってる?」
石野先生「そうなんだ。ちょうど『麒麟がくる』が放映されているところだから、その本能寺の変のエピソードを紹介してみよう。
薫ちゃん「ドキドキ・・・」
石野先生「その前に、薫ちゃん、『三コウ』って知ってるかい?」
薫ちゃん「『三コウ』・・・『3つのコウ』ってことですか?」
石野先生「そのとおり。囲碁にはコウのルールがあって、コウはすぐには取り返せないってことは知ってるよね?」
薫ちゃん「はい、いつもそれで頭を悩ませてます。」
石野先生「このコウのルールのおかげで同じ形が反復することが解消されているんだけどね、お互いの石が攻め合っている時にコウが3つできちゃうと、双方がどんどん別のコウを取ることができてしまって、勝負がつかなくなっちゃうんだ。これを『三コウ』というんだよ。」
薫ちゃん「『三コウ』ができちゃったら、勝負はどうなるんですか。」
石野先生「どちらかがコウを譲ればいいんだけれど、どちらも譲らない場合には無勝負になってしまう。もちろん、滅多にないことだけどね。僕も、これまで経験したことがないくらいだから。」
薫ちゃん「で、その『三コウ』がどうしたんでしょう。」
石野先生「うん、本能寺の変の前日、本因坊算砂と鹿塩利賢(かしおりげん)が信長の前で対局していた時に、奇跡的にその『三コウ』の形が出現したんだ。」
薫ちゃん「えっ!?前日にですか?なんて偶然!」
石野先生「本当だね。当時は囲碁のルールもそれほど整理されていなかっただろうから、算砂先生もさぞかし驚いただろうね。」
薫ちゃん「その算砂の対局は、どうなっちゃったんでしょうか。」
石野先生「記録が残っていないから何ともいえないのが残念だけれど、現代と同じように無勝負になったんじゃないかな。で、それ以来、『三コウ』は不吉な出来事の前兆といわれるようになったんだって。」
薫ちゃん「こわ〜い・・・みんな、『三コウ』ができないように気を付けないといけませんね。」
石野先生「薫ちゃん、安心して。今ではこのエピソードは、後世の人々の作り話だといわれているから(笑)」
薫ちゃん「ひど〜い(怒)先生、私をだましたんですね!」
石野先生「ごめんごめん。でもね、『火のないところに煙は立たぬ』っていうじゃない。『三コウ』だったかどうかは別として、本能寺の変の前に、算砂にまつわる何かしらの出来事は本当にあったのかもしれないよ。」
薫ちゃん「まあ、そうかもしれませんけど・・・」
石野先生「でね、僕が期待しているのは、このエピソードが『麒麟がくる』で放送されることなんだ。」
薫ちゃん「確かにこれまでにも囲碁のシーンはありましたし、面白いエピソードではあるんですけど、ちょっとマニアックすぎませんか?」
石野先生「う〜ん、やっぱりそうかなぁ。」
薫ちゃん「コウができてるだけじゃ、映像的に盛り上がりに欠けますしね。」
石野先生「じゃあさ、算砂が勝負どころで力一杯石を打ちつけた瞬間、碁盤が真っ二つに割れちゃうってのはどう?」
薫ちゃん「算砂さん、どれだけ怪力なんですか!」
石野先生「勝負が終わってみると、盤面に何やら不吉な文字が・・・」
薫ちゃん「そんなおフザケ、NHKさんがやるはずないでしょ!」
石野先生「そっかぁ、そうだよね。でも、ちょっとだけ期待してみようよ。」
薫ちゃん「はいはい、分かりました。」
第39話「囲碁界もいよいよ自粛モード」の巻
薫ちゃん「先生、囲碁の方でも新型コロナウイルスの影響が出ちゃってるみたいですね。」
囲碁十段戦の第3局以降が延期 代替日程は今後協議 - 社会 : 日刊スポーツ
石野先生「出ちゃってるなんてもんじゃないよ。すべての公式戦が中止か延期になっちゃうだろうからね、プロ棋士にとっては大打撃だ。」
薫ちゃん「収入がなくなっちゃいますもんね。」
石野先生「そうだね。対局料はもらえないだろうし、もう一つの仕事であるレッスンやイベントなんかは、もうとっくに中止になっているから、プロ棋士の収入が断たれたに等しいんじゃないかな。」
薫ちゃん「どうなっちゃうんでしょう・・・」
石野先生「政府の対策とかが、棋士にも届くことを祈るしかないかなぁ。」
薫ちゃん「ネット対局を使って、対局を続けることはできないんですか?せっかく『幽玄の間』があるのに。」
石野先生「それね、5年前だったら実現したかもしれないけれど・・・」
薫ちゃん「えっ、5年前と今とで、なにか変わったんですか?」
石野先生「そう、AIの登場だ。」
薫ちゃん「AI・・・そのことと対局とに、なんの関係があるんでしょう?」
石野先生「AIが人間よりも、つまりはプロ棋士よりも強くなったせいでね、ネット対局の傍らにAIを準備して助言をもらえるようになっちゃったんだよ。」
薫ちゃん「そんなことが!」
石野先生「助言どころか、AIとそっくり同じ手を打てば、あっという間にタイトルが獲れちゃうよ。」
薫ちゃん「でも、そんな不正をするような人が、実際にいるとは思えませんけど。」
石野先生「もちろん、そうだと思うよ。みんな囲碁が大好きなはずだから、その囲碁を汚すようなことをするはずはないと僕も思う。でもね、何千万円の賞金がかかるような対局が、そんな不正ができてしまう環境で行われてもいいと思う?」
薫ちゃん「う〜ん、そういわれると・・・」
石野先生「今まであまり実績のなかったプロ棋士が、ネット碁になったとたんに勝ち進んだら、『AI使ってるんじゃ・・・』って疑わずにいられる?」
薫ちゃん「そんなにイジメないでくだだいよ(泣)ネット対局が難しいってことは、よく分かりましたから。皮肉ですよね、技術の進歩が、別の技術の活用を阻んでしまうなんて。」
石野先生「本当だね。」
薫ちゃん「どうか、棋士のみなさんが、早く対局に復帰できますように!」
第38話「仲邑菫ちゃん、大活躍!」の巻
石野先生「昨日の本因坊戦リーグプレーオフは、すごい対局だったね。」
薫ちゃん「私みたいに囲碁を覚えたてでも、何だかドキドキしちゃいましたもんね。」
石野先生「平田先生の解説も、面白かったからだと思うよ。あんな中継をどんどんやってくれれば、『観る碁』ももっと盛り上がるんだろうけどね。日本棋院さんも、どんどん企画してほしいな。」
薫ちゃん「朝ネットを見たら、仲邑菫(なかむらすむれ)ちゃんの記事が載ってましたよ。おかげ杯の予選で、決勝まで行ったんだって。」
石野先生「おかげ杯というのは、割と最近創設された棋戦でね。若手棋士を対象とした、トーナメント方式の早碁の棋戦なんだよ。」
薫ちゃん「『おかげ杯』って、変わった名前ですね。」
石野先生「伊勢神宮前にある『おかげ横丁』で開催されることから、この名前が付けられたんだ。ローカルな棋戦だけれど、その分アットホームな棋戦で、棋士の皆さんにも人気なんだって。」
薫ちゃん「菫ちゃんが挑戦してたのは、その予選なんですね。」
石野先生「うん、決勝トーナメントは16人で争われるんだけど、そのうち3人が女流棋士の枠になっていてね。その3人を決める予選が行われたわけだ。」
薫ちゃん「1日に3局も打たれたそうですよ。」
石野先生「1手30秒の早碁だから、時間は大丈夫なんだろうけれど、それはそれは疲れるだろうね。アマチュアでも、1日に3局も打てばヘトヘトになるもの。」
薫ちゃん「菫ちゃんはまだ若いから、大丈夫ですよ。」
石野先生「それはさておき、菫ちゃんが戦った相手がこれまたすごい。1回戦は加藤千笑(かとうちえ)初段。」
薫ちゃん「加藤さんは、女流立葵杯でも決勝トーナメントに出場していましたよね。」
石野先生「うん、残念ながら1回戦で負けちゃったけれど、その才能は折り紙つきだ。そして、2回戦は牛栄子(にゅうえいこ)二段。」
薫ちゃん「牛さんも立葵杯に出場して、1回戦突破してましたね。」
石野先生「牛さんはこの時点で、男性棋士も含めた勝ち星ランキングでトップだったらしいよ。その牛さんにも勝っちゃうんだから、菫ちゃん本当に強いね。」
薫ちゃん「そしていよいよ、決勝の相手は・・・」
石野先生「そう、我らが(?)謝依旻(しぇいいみん)先生だ。おかげ杯の出場資格は30歳以下で、謝先生は今年が最後の参加になるから、相当気合が入っているはずだよ。」
薫ちゃん「『赤い惑星』が、本気を見せるわけですね。」
石野先生「そのフレーズ、早く忘れたほうがいいと思うよ(笑)」
薫ちゃん「さて、その結果は・・・」
石野先生「謝先生の中押勝ち!菫ちゃん、決勝トーナメント進出はならなかった。」
薫ちゃん「残念でしたね。」
石野先生「でもね、敗れはしたけれど、菫ちゃんの評価はむしろ上がったんじゃないかな。例えばこの局面、謝先生が白1と控えめな手を打ったところで、菫ちゃんは黒2と真っ向勝負を挑んでいった。」
薫ちゃん「白1は、控えめな手なんですね。」
石野先生「謝先生なら、白Aと打ち込んで行くかと思ったけどね。」
薫ちゃん「黒2の凄さも、私にはよく分かりませんが・・・」
石野先生「そうだなぁ、例えるなら『クワトロ・バジーナ大尉に殴りかかっていったカミーユ・ビダン』みたいな?」
薫ちゃん「謝先生も、『これが若さか・・・』ってつぶやいたでしょうね・・・って、何いわせるんですかっ!」
石野先生「まあまあ(笑)菫ちゃんは残念だったけれど、謝先生には決勝トーナメントでも頑張ってもらって、ぜひ有終の美を飾ってもらいたいね。」
薫ちゃん「はい、2人で応援しましょう!」
第37話「本因坊戦リーグプレーオフの結果は?」の巻
石野先生「薫ちゃん、本因坊戦リーグのプレーオフが大変なことになってるよ。」
薫ちゃん「本因坊といえば、3大タイトルの1つですよね。大変なことって、そもそもリーグ戦って何なんですか?」
石野先生「だよね、そこからだよね。薫ちゃんは、今の本因坊は誰だか知ってる?」
薫ちゃん「井山さんですよね。前に聞きましたよ。」
石野先生「そのとおり。で、その井山本因坊への挑戦者を決めるためのリーグ戦が、つい先日終わったところなんだ。」
薫ちゃん「えっ、でも、プレーオフやってるって・・・」
石野先生「そのリーグ戦の結果、芝野虎丸(しばのとらまる)先生と許家元(きょかげん)先生が6勝1敗の同率首位になってね。今まさに、挑戦者決定のためのプレーオフを戦っているところなんだよ。」
薫ちゃん「その対局が見れるんですか?」
石野先生「うん、YouTubeでは中継を動画で見ることができるし、幽玄の間でも生中継中だ。YouTubeでは、今をときめく平田先生が解説しているよ。」」
薫ちゃん「で、何が大変なんですか?」
石野先生「難しいコウ争いになっていてね、訳が分からないことになっちゃってるんだ。」
薫ちゃん「訳が分からないのは、先生だけなんじゃないですか?」
石野先生「いやいや、大半のアマチュアの人は、分かっていないはず・・・あっ、許先生がコウを解消した。」
薫ちゃん「パソコンの画面での解説なんですね。」
石野先生「新型コロナウイルスの感染防止のために、ネットでの解説になっているんじゃないかな。」
薫ちゃん「こんなところにまで、新型コロナウイルスの影響が出ちゃってるんだ。よくよく考えたら、囲碁ってずっと向かい合って対局している訳だから、どちらかが感染していたら、相手の方に感染っちゃいますよね。」
石野先生「まあ、間違いないだろうね。ところで碁の方は、平田先生の解説によれば、白番の許先生の方が優勢みたいだ。」
薫ちゃん「じゃあ、許先生のほ・・・」
石野先生「あっ、でも、許先生の方がちょっと間違えたらしい。許先生は持ち時間が無くなっちゃってて、1手1分以内で打たないといけなくなっているからなぁ。」
薫ちゃん「プロなら、1分もあれば正しく打てるんじゃないんですか?」
石野先生「いやいや、難しい局面になっちゃうと、1分ではきついはずだよ。」
薫ちゃん「平田さんも、どっちが勝ってるか分からないみたいですね。『ギリギリ白勝ちかなぁ』っていってますけど。」
石野先生「虎丸先生の方は、十分考慮時間を残しているからね。おやっ、また許先生が間違えたのかな?」
薫ちゃん「平田さんの評価は、芝野さん寄りになってきましたよ。」
石野先生「あっ、許先生が投了した。挑戦者は、芝野先生に決定だ!」
薫ちゃん「ふ〜、対局の内容はほとんど分からないのに、とっても疲れました。」
石野先生「本当に、見ているこっちのほうが疲れちゃったよ。負けちゃった許先生は残念だったけれども、その分芝野先生には挑戦手合で頑張ってほしいね。」
薫ちゃん「私は、井山さん推しですから。」
石野先生「いいねいいね、好きな棋士ができると、観戦がグッと面白くなるからね。」
薫ちゃん「挑戦手合、楽しみですね。」