第56話「囲碁の普及について本気で考えてみた!」の巻
薫ちゃん「先生、私の悩みを聞いてもらえませんか?」
石野先生「悩み?」
薫ちゃん「そうなんです。最近の私って、どっぷり囲碁にはまっちゃってるじゃないですか。」
石野先生「そうだね。薫ちゃんがここまではまってしまうとは、思いもよらなかったよ。まあ、教えたほうとしては、嬉しい誤算だけれどね。」
薫ちゃん「だから私、学校でも友達に囲碁の話題を振ってみるんですけど、誰も相手にしてくれないんですよ。」
石野先生「う~ん、それは確かに難しいかもしれないなぁ。」
薫ちゃん「なぜなんでしょう、先生。私だって、みんながテレビ番組やファッションの話題で盛り上がってるみたいに、友達と囲碁の話題で盛り上がってみたいです!」
石野先生「薫ちゃんが、日本で一番普及している競技と思うのは何かな?」
薫ちゃん「難しい質問ですけど、強いていえば『野球』かなぁ。」
石野先生「じゃあ、野球を例にしてみよう。薫ちゃんは、野球はやったことある?」
薫ちゃん「実際にバットを持ったりしたことはないけれど、小さいころに弟とキャッチボールをしたことくらいはありますよ。」
石野先生「弟さんは、今でも野球を続けているの?」
薫ちゃん「そうですね、中学で野球部に入っているから。」
石野先生「弟さんは、プロ野球選手になるつもりなのかな?」
薫ちゃん「そこまでは考えていないと思いますよ。プロ野球選手になれるのって、ほんの一部の才能のある人だけでしょう。」
石野先生「そうだよね、そこが大事なんだ。野球をいう超メジャーな競技だと、薫ちゃんみたいにキャッチボールだけって人も大勢いて、そこからどんどんハイレベルな競技を目指していくピラミッド体制が出来上がっているでしょ。こんな感じにね。」
薫ちゃん「確かに!特に男の子だったら、誰だってキャッチボールくらいはやったことがありますよね。」
石野先生「ここで大事なことは、キャッチボールや手打ち野球だって、立派な遊びとして認められていることなんだ。手打ち野球をやっている子供に対して、大人が『手打ち野球なんて野球じゃないよ。ちゃんとした球場で、バットとグローブを使ってやらないと!』なんて野暮なことを言ったりはしないでしょ。」
薫ちゃん「そんなこと言われたら、子供たちは白けちゃいますよ。」
石野先生「ところが、囲碁になると残念ながらそうはならない。野球と同じように考えれば、囲碁もこんな風なピラミッド体制になっていてほしいんだけどね。」
薫ちゃん「ホントだ、野球と考え方は全く同じですね。」
石野先生「でもね、なぜか囲碁になると、最初から9路盤や13路盤、下手をしたらいきなり19路盤で打たせようとしちゃうんだ。」
薫ちゃん「そういわれれば、そんな気が・・・」
石野先生「もちろん、それが囲碁の良いところでもあるんだよ。野球を本格的な球場でプレーしようとしてもなかなか難しいけれど、囲碁だったら簡単に19路盤を使ってプロと同じ環境で対局できちゃう。」
薫ちゃん「でも、そこまでは望んでいない人だって大勢いますよね。」
石野先生「そうそう、そういう人をすぐに19路盤のレベルにまで引き上げようとするから、みんな途中で嫌になって辞めちゃうんじゃないかな。」
薫ちゃん「そもそも、純碁や、9路盤・13路盤は本当の囲碁じゃないみたいな雰囲気も漂ってるような気がします。」
石野先生「まさにその通り!だから、囲碁ってすそ野が広がらなくて、一部のガチ勢の競技になってしまうんだと思うよ。」
薫ちゃん「ということは・・・」
石野先生「うん、まずは僕たちのような囲碁ファン自身が意識を変えないといけないね。」
薫ちゃん「そうすれば、子供たちも今より気軽に囲碁を楽しんでもらえるかも。」
石野先生「そうなれば、将来その子たちが親になったときに、自分の子供たちに純碁や石取りゲームを教えてくれ可能性が高くなる。」
薫ちゃん「時間はかかりそうですね。」
石野先生「まあ、長期的な戦略になっちゃうよね、どうしても。」
薫ちゃん「昔の『ヒカルの碁』みたいなブームがまた来てくれると、そのサイクルが短くなるかもしれませんね。」
石野先生「僕たち囲碁ファンも、その時に備えて今のうちから意識を変えておかないとね。純碁のルールも知らないんじゃあ、教えてあげることもできないよ。せっかく、プロ棋士や囲碁関係者が普及に向けて頑張ってくれているんだから。」
薫ちゃん「じゃあ、私も学校の先生になって、子供たちに囲碁を教えようかな。」
石野先生「それ、いいかも。確かに、薫ちゃんは先生に向いていると思うよ。」
薫ちゃん「よしっ、そうと決まったら勉強しよっと。」
石野先生「えっと・・・学校の・・・勉強だよね?」
薫ちゃん「まさか、囲碁の勉強ですよ!」
石野先生「・・・」