第20話「菫ちゃん、強し!」の巻
石野先生「薫ちゃん、先日仲邑菫ちゃんが、11歳になって初めての勝利をあげたそうだよ。」
薫ちゃん「菫ちゃんって、あの10歳でプロになってっていう女の子ですか?」
石野先生「そうだよ。最近ちょっと元気がないような気がしていたんだけれど、思い過ごしだったみたいだね。アマチュアの僕が見ても、素晴らしい内容の碁だったと思うよ。」
薫ちゃん「そんなこといわれても、私にはまだその素晴らしさを理解できるだけの能力がありませんから。」
石野先生「そうなんだよね。囲碁の、特にプロの碁の素晴らしさを伝えようと思っても、中々難しいんだな、これが。」
薫ちゃん「分からないなりに聞きてあげますけど、どんな手が素晴らしいと思うんですか、先生は?」
石野先生「そうだね、この碁で1手だけ挙げろって言われたら、この白■印の手かな。」
薫ちゃん「すみません、全くわからないので、解説してもらってもいいですか?」
石野先生「この局面でね、白Aと打つ人は、プロでもアマチュアでも大勢いると思うんだよ。」
薫ちゃん「白Aが普通の手なんですね。」
石野先生「AIで分析しても候補として出てくるから、多分ね。対して、この菫ちゃんの1手は、何といえばいいのかなぁ。俗にいう『雰囲気の出た手』・・・この手に、『なるほど、そう打つものですか〜』って関心する人は多いんじゃないかと思うよ。」
薫ちゃん「じゃあ、うまい手なんですか?」
石野先生「いや、それが分かれば苦労はしないんだ。でもね、菫ちゃんのやりたい事はなんとなく分かるんだよ。多分、右辺の白の厚みを活かそうと思って、あえて常識的な白Aではなく、1路左の実戦のような手を選択したんじゃないかな。つまり、自分自身が右辺の厚みから離れることで、相手を厚みに押しつけようとしているんだ。」
薫ちゃん「先生のいっていることはチンプンカンプンですけど、菫ちゃんがいろいろと工夫して打っているんだなってことは何となく分かりました。」
石野先生「うんうん、今はそこまでで十分だよ。で、結局この碁は、菫ちゃんの中押しがち。」
薫ちゃん「本当に強いですよね、菫ちゃん。」
石野先生「そうだね。これからも、みんながワクワクするような碁を見せて欲しいものだね。」
薫ちゃん「私も早く強くなって、先生とそのワクワクを共有したいです!」
石野先生「うん、待ってるよ!」